マイコプラズマ肺炎
※マイコプラズマ肺炎とは
マイコプラズマは正式には「Mycoplasmapneumoniae」という名前の微生物。細菌より小さく、ウイルスより大きく、細菌にもウイルスにもない性質を持っています。ウイルスはヒトの細胞の中でしか増えませんが、マイコプラズマ肺炎はウイルスと異なり、栄養があればヒトの細胞外でも増えていきます。また、細菌には体を保つために外側に細胞でいう膜のような壁がありますが、マイコプラズマ肺炎には細菌のもつ壁がありません。ペニシリン、セフェム系などを代表とする抗生物質の多くは細菌にある壁を壊して細菌を殺す作用を持ちますが、これらの抗生物質では壁の無いマイコプラズマに対して全く効果がありません。この微生物は、気管や喉などの気道に感染することが特徴です。
※マイコプラズマ肺炎の症状
マイコプラズマ肺炎は主に気道に感染します。呼吸系に感染すると、上気道炎、咽頭炎、気管支炎、肺炎になります。肺炎は肺炎球菌による肺炎と違うため、「非定型肺炎」「異型肺炎」と呼ばれています。 主な症状は以下の通り。
- ノドの痛み
- 鼻水、鼻づまり
- 37℃程度の微熱から39℃以上の高熱
- 咳、痰のからむ咳(解熱しても1ヶ月近く続く症状)
- 喘息があると、喘息の悪化、喘鳴(ゼイゼイ・ゴロゴロ・ヒューヒューといった呼吸)
- 呼吸がしにくい呼吸困難
乳幼児に感染した場合は風邪程度で済みますが、学童期頃になると肺炎を起こします。同じように大人が感染した場合も肺炎になります。
※マイコプラズマ肺炎の感染・潜伏期
感染から発症までの潜伏期間は1~3週間ぐらいで、4週間に及ぶこともあります。一度流行すると、どんどん拡がってしまい小流行になってしまいます。季節では秋から冬に多いのが特徴です。
発症年齢は8~9歳がピーク。痰や唾液、咳で人にうつる飛沫感染です。そのため、学校や会社など集団生活している環境で感染が拡がってしまいます。年齢的に、小学校や中学校での流行が多いです。大人の場合は何回も罹ることで多少の抵抗力がつきますが、免疫を長くは維持しにくいのが特徴です。
※マイコプラズマ肺炎の診断
血液検査で診断できます。少し専門的ですが、寒冷凝集反応が陽性になったり、白血球も炎症を示すCRPも細菌感染と違って正常か軽度上昇しているにすぎませんので、採取した血液からマイコプラズマ肺炎の抗体を測定します。30分で判る迅速検査もありますが、検査キットを置いていない医療機関もあります。痰を培養する検査もありますが、こちらは1週間以上かかります。遺伝子を増やして診断する遺伝子検査は、実施できる施設が限られ、一般的に検査できません。
また、聴診しても肺炎を疑う音を発生しないため、肺炎かどうかは、胸部X線で診断します。本来黒く見える肺が大きく白くなっていますが、胸部X線だけではマイコプラズマ肺炎が原因の肺炎を確定することができません。いずれにしても、断定するためには血液検査を行い、マイコプラズマ肺炎に対する抗体を検査するのが確実です。
※マイコプラズマ肺炎と喘息の関係・その他の合併症
もともと気管支喘息がある場合、マイコプラズマ肺炎によって咳がひどくなり、喘息発作を引き起こされてしまうことが多いです。喘息で使用する気管支拡張薬であるテオフィリン(テオドール・テオロング・アミノフィリンなど)は、マイコプラズマ肺炎に効く抗生剤と相互作用を持つため、使用する前に注意が必要。
喘息以外にも、マイコプラズマは肺炎だけでなく、時に脳炎や脳症(2.6-4.8%)、下痢や嘔吐などの消化器症状(8-15%)、肝腫大(8%)、肝機能異常(43.6%)などの肝炎、じんましん、多型滲出性紅斑などの発疹(3-33%)、心筋炎、赤血球が壊れる溶血性貧血などを起こすリスクもあります。
もし以下のような症状が出た場合は注意が必要。
- 黄疸
- 疲れやすいなどの易疲労感
- けいれん、意識がなくなる意識障害
- 盛り上がった赤い発疹、かゆみのある地図のような湿疹
肝炎、脳炎、じんましん、多型滲出性紅斑などの可能性があります。
※治療の方法
マイコプラズマは細菌の一種ですが、一般の細菌とは異なって細胞壁をもっていません。そのため、β(ベータ)‐ラクタム系抗菌薬(ペニシリン系やセフェム系など)は無効であり、蛋白合成阻害を主作用とするマクロライド系やテトラサイクリン系、ケトライド系抗菌薬が第一選択薬となります。また、一部のニューキノロン系薬も有効性が確認されています。 一方、マイコプラズマのマクロライド耐性株が2000年以降に日本各地で分離されるようになりました。その頻度は、小児科領域で40~60%にも及んでいるので注意が必要です。
大部分のマイコプラズマ肺炎は比較的良好な経過をとりますが、時に急性呼吸不全を起こす重篤な症例も認められます。このような重症の場合では、抗菌薬とともに副腎皮質ステロイド薬の併用が有効であるとされています。