「幼保連携型認こども園教育・保育要領」改訂
平成30年度から、「幼稚園教育要領(以下、教育要領)」「幼保連携型認定こども園教育・保育要領」「保育所保育指針(以下、保育指針)」が同時に改訂されます。
これにより、幼稚園・幼保連携型認定こども園・保育園は、すべて幼児教育施設として位置付けられることになります。
平成18年に『教育基本法』が改正され「幼児期の教育は、生涯にわたる人格の基礎を培う重要なものである」と明記されたことで、幼児教育が教育の中に位置付けられました。
この改正を受けて、平成20年の改訂では、「教育要領」と「保育指針」の位置付けが対等になり、同時に公示が行われました。
このように法的な位置付けが整備されたことにより、子どもたちがどの幼児教育施設に通っていても、同じ質やレベルの幼児教育を受けられるように保障することが望まれるようになりました。
そこで、今回の改訂では、幼児教育の内容や質を3つの幼児教育施設で揃えていこうとしています。
3つの幼児教育施設に共通する教育のあり方としては
・ 環境を通した教育
・ 乳幼児期からの発達と学びの連続性
・ 小学校教育との接続のあり方
などが明確になりました。
このように教育の内容や質を揃えることになったことで、改めて幼児教育(環境を通して行う教育)とは何かを考え保育を見直すこと、「資質・能力」「幼児期の終わりにまで育ってほしい姿」を意識して、計画・評価すること、保育指針の「乳児・1歳以上3歳未満児の保育」を理解し、乳児期の保育や子どもの育ちをとらえて、乳時期への学びの連続性を考えることが大切になってきます。
また、今回の改訂では、幼児教育・保育だけではなく、小学校以上の学習指導要領も同時改訂されました。
なぜ、教育についての大きな改革が行われるかというと、未来の変化を見据えてこどもたちの力を育てていこうとしているからです。
今回の改訂では「社会に開かれた教育課程」というものを目指しています。
「社会に開かれた」と強調されているのは、日本社会や世界の状況を幅広く視野に入れて教育課程を作り出してほしいという願いがあるからです。
これまでは「今の社会はこのような社会だから、子どもたちがそれに適応できるよう、このような力をつけさせるようにしましょう」という、比較的関係性が見やすいあり方でしたが、今後の社会におけるAI(artificial intelligence:人工知能)に代表される技術革新の進歩やIot(「Internet of Things」の略で、「モノのインターネット」と訳します。パソコンやスマホなどの情報通信機器に限らず、すべての「モノ」がインターネットにつながることで、人々の生活やビジネスが根底から変わるという)の広がり、世界のグローバル化や流動化、地球環境の変化、それ他の政治的経済的さらには社会的な変化、それらのスピードは急速で、しかも予測不能です。
このような中で、子どもたちが社会で活躍する20年後にも通用する力の基礎を育むことが求められるようになりました。
このことから、今回の改訂では、幼児教育施設に対して、子どもたちが未来の創り手となるために必要な資質・能力を育むことが期待されることになったと言えます。

幼児教育において育みたい資質・能力
今回の改訂では、幼稚園・保育園・こども園は、すべて幼児教育施設として位置付けられ、幼児教育が小学校教育に繋がっていくことが明確になりました。
子どもの育ちについても、乳児からの発達の連続性や「資質・能力」を中心とする考え方によって、幼児教育と小学校以上の学校教育で共通する力の育成をすることになりました。
「資質・能力」は、小学校・中学校・高等学校での教育を通して伸びていくもので、幼児教育ではその基礎を培うのことになるのですが、その基礎的部分は幼児が身近な環境に主体的に関わり、環境との関わりや意味に気付き、これらを取り込もうとして試行錯誤したり考えたりするというプロセスを通して子どもの中に育ちます。
「幼児教育において育みたい資質・能力」の三つの柱は、以下のように定義付けられました。
①「知識及び技能の基礎」
遊びや生活の中で、豊かな体験を通じて、何を感じたり、何に気付いたり、何がわかったり、何ができるようになるのか。
「思考力、判断力、表現等の基礎」
遊びや生活の中で、気付いたこと、できるようになったことなども使いながら、どう考えたり、試したり、工夫したり、表現したりするか。
③「学びに向かう力、人間性等」
心情、意欲、態度が育つ中で、いかによりよい生活を営むか。
小学校以降になると、資質・能力の三つの柱は「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力等」「学びに向かう力、人間性等」となり、高等学校まで一貫して育まれるものとなります。
「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力等」は、何かについてしることや考えるという【知的な力】です。
「学びに向かう力、人間性等」は、さまざまなことに意欲を持ち、粘り強く取り組み、高いところに向けて頑張っていく力のことで、【情意的(または協働的)な力】です。
この【知的な力】と【情意的(または協働的)な力】が相互循環していくことが必要で、幼児教育はそのような力を育てていこうとするものです。
このような意味で、今回の改訂により、幼児教育の基本的な部分や幼児期に育むべき力がより明確になったと言えます。

「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」について
1. 健康な心と体
幼保連携型認定こども園の生活の中で、充実感をもって自分のやりたいことに向かって心と体を十分に働かせ、見通しをもって行動し、自ら健康で安全な生活をつくり出すようになる。
2. 自立心
身近な環境に主体的に関わり様々な活動を楽しむ中で、しなければならないことを自覚し、自分の力で行うために考えたり、工夫したりしながら、諦めずにやり遂げることで達成感を味わい、自信をもって行動するようになる。
3. 協同性
友達と関わる中で、互いの思いや考えなどを共有し、共通の目的の実現に向けて、考えたり、工夫したり、協力したり、充実感をもってやり遂げるようになる。
4. 道徳性・規範意識の芽生え
友達と様々な体験を重ねる中で、してよいことや悪いことが分かり、自分の行動を振り返ったり、友達の気持ちに共感したり、相手の立場に立って行動するようになる。
また、きまりを守る必要性が分かり、自分の気持ちを調整し、友達と折り合いを付けながら、きまりをつくったり、守ったりするようになる。
5. 社会生活との関わり
家族を大切にしようとする気持ちをもつとともに、地域の身近な人と触れ合う中で、人との様々な関わり方に気付き、相手の気持ちを考えて関わり、自分が役に立つ喜びを感じ、地域に親しみを持つようになる。
また、こども園内外の様々な環境に関わる中で、遊びや生活に必要に情報を取り入れ、情報に基づき判断したり、情報を伝え合ったり、活用したりするなど、情報を役立てながら活動するようになるとともに、公共の施設を大切に利用するなどして、社会とのつながりを意識するようになる。
6. 思考力の芽生え
身近な対象に積極的に関わる中で、物の性質や仕組みなどを感じ取ったり、気付いたりし、考えたり、予想したり、工夫したりするなど、多様な関わりを楽しむようになる。
また、友達の様々な考えに触れる中で、自分と異なる考えがあることに気付き、自ら判断したり、考え直したりするなど、新しい考えを生み出す喜びを味わいながら、自分の考えをよりよいものにするようになる。
7. 自然との関わり・生命尊重
自然にあふれて感動する体験を通して、自然の変化などを感じ取り、好奇心や探究心をもって考え言葉などで表現しながら、身近な事象への関心が高まるとともに、自然への愛情や畏敬の念を持つようになる。
また、身近な動植物に心を動かされる中で、生命の不思議さや尊さに気付き、身近な動植物への接し方を考え、命あるものとしていたわり、大切にする気持ちをもって関わるようになる。
8. 数量・図形、文字等への関心・感覚
遊びや生活の中で、数量や図形、標識や文字などに親しむ体験を重ねたり、標識や文字の役割に気付いたりし、自らの必要感に基づきこれらを活用し、興味や関心、感覚を持つようになる。
9. 言葉による伝え合い
保育教諭や友達と心を通わせる中で、絵本や物語などに親しみながら、豊かな言葉や表現を身に付け、経験したことや考えたことなどを言葉で伝えたり、相手の話を注意して聞いたりし、言葉による伝え合いを楽しむようになる。
10.豊かな感性と表現
心を動かす出来事などに触れ感性を働かせる中で、様々な素材の特徴や表現の仕方などに気付き、感じたことや考えたことを自分で表現したり、友達同士で表現する過程を楽しんだりし、表現する喜びを味わい、意欲をもつようになる。

今回の改訂では、これらの「力」を就学前に十分育んだうえで、小学校の入学直後には、生活科を核とした「スタートカリキュラム」と呼ばれる総合的な授業を行い、各教科の本格的な学びへと円滑につなげようとしています。
この「幼児期の終わりにまで育ってほしい姿」は、「幼児期の教育と小学校教育の円滑な接続の在り方に関する調査研究協力者会議」の報告書で、「学習指導要領においては、育つべき具体的な姿が示されているのに対し、幼児期については幼稚園教育要領や保育所保育指針からは具体的な姿が見えにくい」という指摘があり、小学校側からの要請を受けて歩み寄る形で編み出されたもので、5領域にあるキーワードを小学校学習指導要領の記し方に沿って示したものです。
もちろん、幼稚園・保育園・こども園・小学校で共有し、共通に認識すべき事柄として明示されたことは意義あることですが、既に5領域に関する知識も保育の実績も十分にある保育者にとって、この内容はこれまで大切にしてきたことばかりです。
ところが、このように列挙されると、10の姿をそのまま到達目標にしたり、これらに当てはめて子どもを評価したり在り方に陥ってしまうことが危惧されます。
保育者が評価しなければならないのは、子どもの出来不出来ではなく、保育環境を含む実践の内容や方法です。
子どもが生きる現実や、今ここに存在する一人一人の子ども姿こそ大切にするべきで、10の姿はあくまで目安と考えれば良いように思われます。
保育には、大人の願いが込められます。
そのため、そこにはそれぞれの保育者の子ども観や価値観が投影されます。
それは当然のことであり、人から人へ手渡す営みが保育でもあると言えます。
しかし、一方的な期待やこうなるべきだという要請は、時に子どもたちを苦しめることになります。
本園が保育の基底に置いている「まことの保育」が、私の思いではなく、仏さまの願いを依りどころにするのは、私は常に自分の思いを通してしか、ものを見ることができない存在からです。
だからこそ、常に私のあるがままの姿を映し出し、私の姿を見つめさせてくださる仏さまの教えに耳を傾けることによって、独善に陥ってはいないか検証しながら保育を進めていくことに努めているのです。